日時

日時 2023年6月25日(日) 14:00〜16:30

場所 立教大学池袋キャンパス

テーマ

学校運動部活動のこれまでとこれから

――文化・社会的意義から見えてくるもの

開催趣旨

日本体育・スポーツ・健康学会の体育社会学専門領域研究委員会では、これまで2年間をかけて研究会、およびセミナーを通して学校部活動(部活動)のいわゆる地域移行について体育社会学の観点からアプローチしてきた。新学会設立となる今回のシンポジウムでもその議論を発展的に引き継ぎ、テーマを「学校部活動のこれまでとこれから」とした。

これまで、「部活動の地域移行に関する検討会議」の提言をふまえて、部活動の地域移行を念頭においたテーマを設定してきた。例えば、部活動を引き受けることになる「地域スポーツクラブは何を求められているのか」、「部活動の地域移行をめぐって起きている課題と今後生じうる問題とは何か」といったテーマのもと、おもに部活動やクラブのマネジメント、行政や制度的側面などから議論をおこなってきた。

部活動の地域移行が必要とされる背景には、教員の働き方改革が柱の一つとしてある。しかし一方で、教員が、そして学校という場が培ってきた、部活動を通じた教育や文化・社会的意義も確かに存在する。部活動の地域移行の議論には、地域に委ねれば問題が全て解決するかのような語られ方がされているところもあるが、本シンポジウムでは、部活動が「これまで」果たしてきた文化・社会的意義や機能について論じたうえで、それらが地域に開かれていく部活動の「これから」に目を向ける。そのことは、これまでの体育社会学の研究蓄積から私たちは何を論じることができ、今後どのような問いを立て研究を積み重ねていくことができるのかを問うことであり、独自性をもつ領域としてのこれからを展望することにつながるはずである。

登壇者

有山篤利(追手門学院大学)

タイトル:運動部活動改革の二つのミッション

下竹亮志(筑波大学)

タイトル:運動部活動は何をしてきたのか?

山本宏樹(大東文化大学)

タイトル:「学校か地域か」の前提を問う

司会

石坂友司(奈良女子大学)

抄録

運動部活動改革の二つのミッション

有山篤利(追手門学院大学)

現在、地域移行として進められている運動部改革は、日本のスポーツ活動に大きな地殻変動をもたらす。なぜならば、日本のスポーツの中核は学校を基盤にした競技スポーツによって成り立っており、その活動単位である運動部の機能不全は我が国のスポーツ活動の停滞に直結するからである。しかし、部活動の地域移行は教員の負担軽減のための地域活用という片務的な労務対策に矮小化されている。学校・地域間には深刻な軋轢が生じており、教員に代わって負担を担う人材の確保とそれに見合う対価の捻出に問題は収斂されがちである。

運動部活動は学校生活を豊かにするだけではなく、well-beingの時代にふさわしい豊かなスポーツライフを実現する活動として再構成すべきであり、教員の負担軽減はその達成に伴う効果として位置づける必要がある。そのためのミッションは大きく二つある。一つ目は、部活動が担えなくなった競技スポーツ活動を学校外に移管することであり、それは各種目の競技団体の責務である。二つ目は習い事ではない余暇のスポーツ活動の創造である。学校でスポーツを趣味として主体的に実践できる人材が育ち、地域で活動の場と機会を確保する連係が重要であり、それが真の意味での働き方改革につながる。

運動部活動は何をしてきたのか?

下竹亮志(筑波大学)

現在、地域移行を始めとした運動部活動改革が進められていることは周知のとおりである。近年では、スポーツ庁や経済産業省で部活動の地域移行が活発に議論され、ガイドラインや提言が立て続けに提示されてもいる。ところが、スポーツ庁で検討されていた、2025年度までに公立中学校の休日の運動部活動を地域移行するという方針は、早くもトーンダウンしている。運動部活動改革が急速に進められ、そして急速にトーンダウンしてしまう状況は、その議論の不十分さを露呈すると同時に、部活動という存在が日本の学校教育と深く結びついてきたことを象徴しているように思える。何らかの役割を果たしてきたからこそ、運動部活動はこれほどまでに大きく、そして深く私たちの社会に埋め込まれてきたのだろう。そこで、本報告では運動部活動が一体「何を」してきたのかについて、指導者の言説と生徒の実践から捉え直してみたい。そうすることで初めて、運動部活動が果たしてきた役割の「何を」これからの日本社会は必要とするのか、それはどこで、誰が、どのように担えるのか、といった問いについて考えることができるはずだからである。

「学校か地域か」の前提を問う

山本宏樹(大東文化大学)

学校部活動が多くの子どもから支持されてきたことは複数の調査から明らかである。子どもの身体や人格の育成に寄与する点を示唆する知見も多い。他方で、子どもや教師の自由時間を占有し、抑圧的な上下関係や暴力的指導によって教育的逆機能を果たすとの指摘も少なくない。学校部活動には光と影の両面がある。

学校部活動は受験学力競争の基準を多元化し、勉強の得意でない子どもに活躍の場を与えてもきた。だが「スクールカースト」等の差別的生徒秩序の温床と化すおそれや、推薦入学後の学校不適応なども指摘されているところである。学校部活動は家庭や地域の教育格差を是正し、スポーツや文化活動への普遍的アクセスを促進する機能も果たしているが、そこでも公立私立間の格差や早期教育といった問題が宿痾となっている。

部活動の地域移行はこうした光と影のバランスを変化させうる重大事態である。だが「学校か地域か」は擬似問題であるとも言えるのではないか。つまり真の説明変数は「教育資源の多寡」であって、「学校か地域か」(あるいは「学校も地域も」)の議論をめぐる最適解は各地の教育資源の調達可能性に依存するだろうし、子どもの権利を保障するためには部活動に対する社会投資が必須であろう。

シンポジウム当日は、以上を踏まえ、部活動改革の今後について、いくつかのシナリオを検討したい。